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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

ピークタワーと香港麻雀!

             ≪八月十八日≫    -壱-



  皆昨日の疲れからか良く眠ったもんだ。


 もう太陽は中天をすぎている。


 YMCAの柔らかいベッドより、コンパネ板の上にシュラフを敷いた方

が、良く眠れるのかも知れない。



  久しぶりに洗濯物と格闘し、部屋の中に干し終わって、おもむ

ろに外へ出る。


 食事はいつもの屋台でいつものおばさんが居る。


 もうとっくに捨てられそうなテーブルとイスが五つほど並び、奥には

いつもの大きな扇風機が回っている。


 この扇風機だけが、ここの屋台に不釣合いほど新品なのである。


 この新品の扇風機だけが、屋台のおばさんの自慢なのだ。



  ”私は幸福よりも、喜びを手に入れたい!”と言ってた人がい

た。



  この屋台には、メニューと言うものがない。


 だから客は、屋台に並べられた食材を見て、”これとこれが食べた

い!”とおばさんに言えば、おばさんが奥で料理してくれる。


 たとえそれが、納得のいかない料理であったとしても、料理の中には

ちゃんと欲しいといった食材が入っているから文句は言えないのだ。


 そして、料理と同時にこのおばさんの笑顔も美味しいのだ。



  どこへ行くにも、我々は一旦スターフェリーまで歩かなくては

ならない。


 昼食の後、昨日書いた彼女への手紙を懐に忍ばせて歩き出す。


 スターフェリーの近くに、目指す大きな郵便局がある。


 出しても出さなくても、後悔しそうな・・・・手紙ではある。



  暑い陽ざしに水分を取りすぎた仲間達が騒ぎ出す。


    鉄臣 「トイレはないの?出そうだ!」


 仕方なく、近くのホテルに入る。


 一流ホテルには似合わない我々だが、仲間がトイレに行っている間、

柔らかく大きなソファーに身を沈める。



  早速、ホテルの給仕がやってきた。


    給仕 「何にしますか?」


    会長 「オイ!なんにする?水でも頼むか?」


    俺  「そういう訳には・・・・・!」


 やばいなー!と言った顔で仲間の顔を見渡す。


    会長 「そうか、じゃあ・・・・・アイスコーヒー・・一つ頼

          むか!皆で飲めばいいじゃんか!」


 ながながと議論の末決定。


    若狭 「おっちゃん!アイスコーヒー一つ・・・・・・一つや

          で―!」


 大阪弁まるだしで叫んだ。



    俺  「クーラー効いてて、めちゃ気持ちエエなー!」


 すぐ近くのショーウインドウを覗いている、若い女の子をからかいな

がらの一時の休息。


 どうやらトイレも済ませたようだ。



  快適なホテルを出る。


 街の中を歩きながら、これから必要になってくる、銀行や旅行代理

店、各国の領事館などを見つけては確認しながら、いつの間にか足は登山電

車の入り口に向かっていた。


 傾斜が45°はあろうかと思われるような、山の斜面をピークタワー

へと、太いワイヤーロープでゆっくりと、ピークトラムで引っ張り上げるの

だ。


 これに乗るのに、片道一ドル五十セントもかかってしまった。


 山の斜面にも、いろんなビルが建ち並び、各所にトラム・ストップが

設けられていて、途中で乗降できるようになっている。


 つまり、観光用だけではなく、市民の足としてこの登山電車があるの

だ。


    鉄臣 「ワイヤーロープ・・・切れへんのかなー!」


    会長 「そら切れることもあるやろ!」


    鉄臣 「ほんまですか!こわいなー!」



  海抜1300フィートにあるピークタワーが終点。


 ここからは、ビクトリア地区・九龍地区・新界と言わず、中国の国境

に位置している山頂も見ることができる。


 素晴らしい眺望である。


 望遠レンズを通して見えるのは、降り立ったカイタック空港であり、

中国の監視塔であり、麻薬・売春の巣となっているジャンク(船上生活者)

の群れだ。


 日本人観光客もチラホラ目に付く。


 そして、至る所に落書きが見える。



  又も一機、飛行機がカイタック空港に着陸をはじめた。


 自然を大切にと言う我々日本国と違って、ここ香港は実に乱雑にビル

が建ち並び、いまや山の斜面も覆い隠すような状態である。


 しかし、ここには不思議な美しさがある。


 人工美と自然美がおりなす美しさであり、人間の営みの美しさであろ

うか。


 香港はまさしく生きている。


 人が生きるためにはここまでするのか!という危うい空間とでも言お

うか。


 日本の未来をここに見る思いがした。



  このタワーにもKIOSK(売店)がある。


 土産物売り場とでも言おうか。


 KIOSKのなかに二人の香港娘がいて、話し掛けると乗ってきた。


 日本人観光客が多いせいか、少しばかりの日本語を知ってはいたが、

話ができると言うほどでもない。


 しかし、そこは連盟会員達、広東語と英語と得意の大きなジェスチャ

ーで話がはずんだ。


 日本語に興味を持っているのか、商売そっちのけで、メモ用紙とペン

を持って来て、いろんなことを聞いてくるにのは参ってしまった。


    鉄臣 「ホンマに可愛いやっちゃ!」



  喋りつかれて、パノラマレストランへ。


    会長 「誰じゃい!こんなとこへ行こう言うたんわ!ミルクが

          3$50¢もするぞ!」


 イスに腰をおろし、大きな窓を通して香港を見下ろす。


    俺  「ここから、夜景見たら・・・・きれいやろなー!」


 頑張って時を過ごすのだが、一向に日は沈みそうにない。


 ここ香港に関わらず、どこの国にも夜と昼の顔を持っている。


 その国の本当の事を知りたいのなら、夜歩く事だと誰かが言った。


 われわれはまだ、香港の夜をしらない。


 知りたくもあるのだが、怖い気もする。



  100万ドルの夜景を諦めて下山の途につく。


 今日は、何の仕事もなくすぎようとしていた。



  香港島の中心街はさすがに賑やかである。


 さしずめ、香港の銀座通りとでも言おうか。


 日本料理店も何軒か目に飛び込んでくる。


    鉄臣 「あ~~あ!味噌汁にトンカツが食いて~~~な!」


 高くて手がでない。


 夕方になって、さらに人が増えたようだ。



  ちょっと離れた、庶民の商店街では、夕方18時になるともう

店を閉めてしまう。


 大きなシャッターをガラガラと引きおろす。


 しかしその閉じられたシャッターの奥からは、威勢のいい声と笑い声

が聞こえてくる。


       「ガラガラ・・・・パシーン!」


    鉄臣 「ちょっと覗いていこうよ!」


 シャッターのくぐり戸から中に入ると、なんと庶民は皆麻雀を楽しん

でいるではないか。


 中国では禁止されているはずの麻雀。


 日本だけに残っていると思いきや、本家の血筋を引いた香港麻雀が盛

んなのだ。


 日本では学生とサラリーマンの遊びとなっているが、ここでは庶民の

健全な娯楽となって花開いている。



  中は人息とタバコの煙でムンムンしている。


 パイを見てビックリ!


 なんとでかいパイ。


 日本の三倍くらいありそうなパイを思いっきり卓に振り下ろす。


 良く見ると、パイの種類も少なくて、遊び方も日本とはちょっと違っ

ているようだ。



  何やけったいな奴らが着てるで!


 そんな目つきで我々に視線が集まる。


    俺  「ちょっとやってみたいな!」


 会長が得意の広東語で店のオーナーと交渉。


    会長 「あかんわ!料金が高い、高すぎるわ!たぶん吹っ掛け

         てきてるんだと思うけどな!」


    俺  「いくらなんですか?」


    会長 「一卓、一時間、40$(2400円)やて!」


    俺  「あかん!」
 店を飛び出した。



  宿に戻ると、いつもの屋台で夕食を取る。


 今日は輸入物(ドイツ)のビールで乾杯。


    会長 「これまでの無事を祈って!乾杯!」


    俺  「やっぱり、ビールはキリンに限るわ!」


    鉄臣 「おばちゃん!あれ頂戴!」


 鉄臣が隣で食っている料理を指差して叫ぶ。


 人が食っているのは何でも美味そうに見える。


 それでも、「あれ!頂戴!」の声が屋台に響く。



  まだ、21:00。


 香港$の残り、69$70¢なり。


 20日まで、もたせたいもんだ。


 ベッドに横たわって、日本に手紙を書く。


 静かな夜が過ぎて行く。


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